深夜に聴いたNHKラジオ「宗教の時間」
先日、NHKラジオの「宗教の時間」という番組で、名古屋大学名誉教授・カトリック終身助祭である三田一郎(さんだ・いちろう)氏のお話を聞いた。
三田一郎氏
NHKのホームページには次のような紹介がある。
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科学者にとっての神
初回放送日: 2023年7月30日
科学者にとっての神とは?
三田一郎さんは素粒子研究者であると同時に、カトリック教会の協力助祭として働いてきた。科学の進歩は、人類が長いあいだ万物の創造主と考えてきた「神」の存在を否定することもある。物理学者と助祭、二つの顔を持つ三田さんはどのようにとらえているのか?アインシュタインやホーキングなどが神について語った記録も紹介しつつ、三田さんの信仰を語ってもらう【出演 名古屋大学名誉教授 三田一郎】
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三田氏は1944年生まれの79歳。
ラジオ番組中の紹介ではつぎのようにあった。
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三田さんは1944年の生まれ14歳で渡米し、プリンストン大学大学院博士課程修了後、ロックフェラー大学準教授などを経て名古屋大学教授に就任。東京大学カプリ数物連携宇宙研究機構プログラム・オフィサーなどを歴任しました。また南山大学宗教文化研究所客員研究員となり、現在もカトリック、東京第4教区協力助祭として活躍中です。
2023年の6月にはカトリック科学者協会から科学と信仰の関係についての著作活動などによって聖アルバート賞を授与されています。
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また、ウィキペディアによると次のようにある。
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三田 一郎(さんだ いちろう、Anthony Ichiro Sanda、1944年3月4日 – )は、日本の物理学者(素粒子物理学)、カトリック教会の助祭。CP対称性の破れとB中間子の崩壊についての研究で、イカロス・ビギ(英語版)とともに2004年のJ・J・サクライ賞を受賞した。
生涯:
東京都出身。中学2年のときに父の転勤で渡米し、以後、1992年に帰国するまでアメリカに在住していた。1965年6月にイリノイ大学工学部物理学科卒業。1969年6月にプリンストン大学大学院博士課程を修了し、Ph.D.を取得した。コロンビア大学研究員(1971年から1974年まで)、フェルミ国立加速器研究所研究員、ロックフェラー大学準教授(1974年から1992年まで)を経て、1992年より名古屋大学理学部教授、2006年4月より名古屋大学名誉教授、神奈川大学工学部教授。 2007年より東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構プログラムオフィサーを兼務する。
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このような科学の分野での輝かしい経歴を持ちながら、カトリックを信じているという人物である。
そういった人物の話には非常に興味をそそられた。
鈴木健二ディレクター
聞き手は鈴木健二ディレクターである。
この鈴木健二氏はNHKのアナウンサーであった。昔はよくテレビで見かけたものだ。
しかし最近はフリーのアナウンサー、ディレクターとしてNHKラジオなどで活躍されている。
なんと1929年生まれの94歳(!)である。
この番組を聞いても、いまだに頭脳明晰、十分な下調べをされ的確な質問をされていることがわかる。
科学を突き詰めると神を信じる人が多いということも聞く。
日本人の多くは、形式的なことを除くと、無宗教であると思うが、この科学と宗教、というテーマを三田氏はどうとらえているのか。
宇宙とは、神とは
彼の発言を引用しよう。
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地球や宇宙が偶然にできたんならば、神様は要らないと言う人もいます。地球や宇宙が偶然できる事は否定できません。宇宙の数や星の数がわからないからです。
科学が神の存在を否定するという事ですが、神様は何でもできるということと、私たちが何でもできるということはちょっと違うんですよ。神様の何でもできる、っていうのほんとに無限に何でもできることです。私たちができる事はほんのちょっぴりのものですね。
ですから地球位の大きさは神様ができる事だったら私たちは野球のボール位です。
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つまり、現在人間が理解できている科学的知識というのは、「神」(三田氏は宇宙の「創造主」のことを「神」と呼ぶ、というか定義する、と言っている)がつくった科学法則の中のほんのちょっとに過ぎない、と言っている。
いずれにしても我々人類の小さな頭では、少なくとも我々が存命中は、この宇宙の法則が解明されることはないだろう。
でも、だからといって人間は宗教者にならなければならないのか?
鈴木ディレクターの質問
鈴木ディレクターは、いろいろと的確なツッコミをしてくれている。たとえば、
・アインシュタインたちのような現代の物理学者たちは神を全く否定しているのか。
・ホーキングは自分で無神論者といっているが、どうなのか。
・ビッグバン理論を発見したルメートル(1894-1966)とはどういう人か。
・宇宙に科学法則があるという事ということと、天国があるって言う事は直に結びつくのか。
・三田氏が信じている神様とは、宇宙を支配している自然の法則、あるいはその法則を創造したと考えられる抽象的な存在か、それとも、三位一体の人格を持ったものか。
・そういう人間にかかわってくれる神がいるのであれば、なんで何年もコロナが続いたり、大地震が起こったりするのか。
三田氏の発言で気になったもの
それぞれの問いに対して、三田氏はそれなりに理論的に答えている。
筆者が気になったところを下記引用してみる。
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宇宙が創造される前に科学のルールがありましたが、そのルールは誰が作ったのでしょうか。宇宙の創造主が決められたに違いないと私は思います
私は宇宙の創造主のことを神と呼ぶというか、定義します。
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物理学とは物体の運動するルールです。偶然にできるはずがないと考えるようになりました。このルールはですね、美しいんですよ。つまり数理的に完璧なんです。当時から科学法則を学ぶたびに、こんな美しいものは誰が作られたのか、この宇宙を作られたのは神しかいないと考えて、新しい法則を学ぶたびに、私は神から背中を叩かれたような感じがしました。
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でもですね。このような経験をしながらも人間とは愚かなもので、本当に神はいるのかなと時々思ってしまうんです。
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西暦400年位に活動した聖アウグスティヌスは聖書と科学は神が作られたものだから、矛盾しない。科学が正しいなら正しい聖書の解釈をしなさいと言っています。
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もう一つアインシュタインの言葉を述べましょう。Science without religion is lame. Religion without science is blind. ちょっと訳すとですね。宗教のない科学は歩行困難、科学のない宗教は盲目である。
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僕と言うよりもカトリック教会は何言ってるか最初にいいます。2つの提言があります。
第1提言は神は宇宙創造を科学法則に全て任された。
そうしないと私たちは科学者として存在できないんです。たとえばいろんな計算がありますよね。ここから火星に行くときにどうやったらいいのか、火星も動いてるし地球も動いてるし、重力もそこら中にある。すべて計算しなきゃいけない。そして神様がちょっとそれを変えたら全然もうそのプロジェクトはダメになります。神様は絶対に科学法則を変えない、と言うふうに考えないとダメなんです。でもそうすると私たちはもう自由意志なんかがなくなります。すべてが最初に決まってる、神様がこの宇宙をこう発展するだろうから、こういう風な初期条件を作らなきゃいけないとして、そうしてある。だから、今日鈴木さんと一緒にこう話してるのも138億年前に神様が決めたことになるんです。ですから私たちはもう自由意志もない。それがこの第一提言の神様です。そしてこれはアインシュタインが信じる神様です。
第2提言と言うのは、人間の魂は神の領域であり、科学では理解できない。
魂にある事は科学は理解できない。ですから、科学が理解したら全てが解けるということは大間違い。第2提言中で魂を通して神様は奇跡を行って下さいました。でもアインシュタインはこれを信じません。
私は科学については第1提言を信じて第2提言で奇跡を信じます。
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しかし、なぜ、「神」を信じるとしても、カトリックでなければならないのか、とか、「神」は何の目的で宇宙を創ったのか、とか、そもそも、宇宙の創造主のことを「神」と定義する、ということであれば、なぜ「神」は「人間」のことしか考えない、という前提で話しているのか、といったところにはまだ疑問が起こる。
また、ビッグバンの前はどうなっているのか、とか、同じような宇宙が我々の宇宙の周りに無限に存在するのではないか、といった問いにも誰もまだ答えられない。
この番組を聞いて、94歳の鈴木ディレクターの礼儀にのっとったツッコミを頼もしく思ったものの、答えられた内容は、筆者を納得させるところまではなかなか行かなかった。
全体のごく一部しかわかっていない状態で、何を信じるか、というのを決めるのは難しいし、そんな状況で何かを信じるのは危険でもある。
それは過去のカトリック教会が犯してきた罪でもあろう。
また、「創造主」を「神」と呼ぶとしても、「創造主」というものが、我々の想像できる「人格」のようなものを持った存在と考えるのも無理がある(確証がない)のではないかとも思う。
しかし、わからないことがあるから、必ず死ぬとわかっていても、人間は生き続けられるのかもしれない。
夜中に目が覚めて、このラジオを聴きながら寝落ちを目指したが、ますます目が冴えて眠れなくなってしまった夜だった。